2011年4月25日月曜日

吉田いす



僕の長年の仕事仲間で、舞台照明のデザイナーの井上さんが取り組んでいるプロジェクトに「吉田いす」があります。「吉田いす」はいわゆる電動車いすです。以下、長くなりますが井上さんのコメントを転載します。

※吉田いすの詳細はhttp://www.mec-systems.co.jp/yoshida/yo_f1_top.htmlはこちらから


吉田いすは、筋ジストロフィーになってしまった友人の吉田くんのために作り始めたものです。最初は大きめのキャスターのついたいすのようなものだったのですが、2006年秋頃から電動ということになっていきました。
全く素人の私が電動いすを作り続けて3年目になります。日本の展示会に5回、ドイツの展示会に1回出展しました。たくさんの方々に会いたくさんのご意見やご忠告、アドバイスをいただきました。その中で、吉田くん
とも話し多くの方々に言われたのは、「楽しいのがいいね」でした。まず最初に、この「楽しいのがいいね」がキーワードになったのは、2007年の10月に初めて出展した国際福祉機器展で、最初に言われたのが「かわい〜〜〜」だったのです。

これは「楽しい〜〜〜」でもあり「かっこいい〜〜〜」でもありました。「こういうのを待ってたのよ」「よく作ってくれた」「絶対にやめないでね」「これは本物の木?」「ペンキの感じがいいね」、こんな意見ばかりが圧倒的でした。身障者のみなさんはずっと長い間身障者なんですね。みんな本当によく知っているんです。どんな電動いすが世の中にあって、どんな電動いすが世の中に無いかを。そして吉田くんの言葉を借りれば、「普通の電動いすはいかにも医療用の器具って感じでさ、楽しくないんだよ。家の中で使えるように考えられてるのも無いしさ」「第一、すわってて楽しくないよ」なんです。

だから吉田いすは、みんなの意見で「こんなのあったらいいな」という理想のいす、夢のいすなんだと思うんです。「パパが作ってくれたいす」「友達が作ってくれたいす」のようなものが吉田いすなんだろうと思います。もし身障者の皆さんが自分で電動いすを作れるとしたら、それはどんなものになるだろう?色や形や機能や、いろんな事をあーでもないとかこーでもないとかいいながら造り上げているのが吉田いすなんです。だからはっきり言ってこれが吉田いすと言う決まりは無いんです。楽しく使いやすいいすが吉田いすなんです。
もちろん今の姿は木製で駆動部はポリカーボネートでシンプルな形をしています。でも、今後いろいろに変化して行きます。自由に変化して行くのも吉田いすの特長です。吉田いすはモノというよりも吉田いすという概念ですから。
確かに電動いすは医療器具のジャンルでしょう、でもそれだからといって冷たい医療器具の形をしていなくてもいいと思います。もっと楽しい形をしていてもいいだろうと思うんです。電動いすは日常に使うものですから、楽しい日常の生活の中に解け込めるものであっていいんです。
海外ではどんな反応なんだろうと、昨年ドイツのリハケアーという福祉機器展に出展してみました。世界最大の福祉機器展です。ここでも日本と同じ事が起きました。「こういうのがいいんだよ」「よく作ってくれた」。特に北欧の人たちが高い反応を示してくれました。関心があるからこれからも連絡を取り合おうと言ってくれた方々は9カ国11社に上りました。リハケアーには世界から電動いすのメーカーだけで53社が出展しました。その中で吉田いすだけが「楽しいいす」の概念を持っていました。これはほんとに素晴らしい事なんだろうと思っています。

上記のコメントは、2008年に井上さんがホームページに書かれたモノです。このコメントにもあるように、自由な発想から吉田いすはどんどん進化を遂げて、いまや砂浜も走れる四輪駆動の車いすまで開発・販売されています。

僕は、井上さんの柔軟な発想と情熱、そして行動力に、いつも元気をもらいます。井上さんと話をしていると、素晴らしい製品のカゲには、必ず井上さんみたいな素晴らしい開発者がいるんだろうな!と感じます。

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